2017年5月号Baseballクリニック

前回、足関節と投球動作の関係を「てるクリニック」院長の照屋先生と同クリニック理学療法士である玉城さんに説明してもらいました。
今回は、その続きで足関節のストレッチや日常生活にて気をつけることを話してもらいます。

新年度になり、新たな仲間が入ったチームも多いかとも思います。これからの練習や大会に向けて、今回の内容がためになれば嬉しいです。
3月のベースボールクリニックでもお伝えしましたが、大切なことなのでもう一度。
『投球動作は、つま先から指先までの全身運動であり、身体の捻りや重心移動によって蓄えられたエネルギーを各関節の連鎖運動により増強し、最終的にはボールを投げるということに集約させるものである。従って、その障害は肩関節にのみ起因するものでなく、足、膝、腰、体幹、肘などすべてに関係している。』と、定義されています。
投球動作は全身運動ですので、痛みのある部位だけでなく、体全体を考えないといけません。
右投げの場合の左足は、前方への重心移動において大切です。
足関節が硬く背屈(足首を曲がること)できないと、せっかく勢いをつけたのに左足でブレーキをかけることになります。
また、左足が不安定だと、意図せず膝が外側や内側に倒れることで前方への重心移動が不十分になり、ボールをしっかり押し込めず、上半身で無理な横ぶりをしないといけなくなります。
今回は、足関節と投球動作の関係性の中からストレッチなどをお伝えします。

【投球時の足関節】

右投げでの投球時のフットプラントの左足の動きは、写真①のようになることが一般的です。
この時に足関節の背屈(写真②)の動きが少ないと前方への重心移動が妨げられます。
この足関節の背屈を邪魔(制限)する要因の一つに長母指屈筋の硬さがあります。

写真①
沖縄スポーツリハビリ野球肩野球肘

写真②
沖縄スポーツリハビリ野球肩野球肘

【長母指屈筋のストレッチ】

片方の足を正座のようにし、ストレッチするほうの足を体育座りのようにします(写真③)。
ストレッチするほうの足の親指とその他の指を手で上に持ち上げて、そのままストレッチする足に体重を乗せます。
特に親指を持ち上げるようにしたほうが効果的です。ふくらはぎの裏側が伸びるような感じになればOKです。
この時に、足の向きと膝のお皿の向くほうを合わせましょう。
膝を内側や外側にしてしまうと、足関節の軸から外れて筋肉のストレッチが十分に出来なかったり、膝への負担になりマイナスになることもありえます。

写真③
沖縄スポーツリハビリ野球肩野球肘

ストレッチは、練習後やケアの時には2分。練習前は20秒程度にしましょう。
2分行うと筋肉自体が伸びるという研究の報告があります。
また30秒以上のストレッチは筋力が一時的に落ちるという研究の報告がありますので、練習前は20秒程度に留めておくのが現時点でのベストだと思われます。
ストレッチの長さについての議論は昔から様々ありますが、新たな研究の報告があればこちらでもご報告したいと思います。
なぜ長母指屈筋が足関節の背屈を制限するかというと、長母指屈筋は腓骨(外くるぶしの骨)の後ろから親指先の足の裏までついていると言われている筋肉です。(写真④⑤)

写真④
沖縄スポーツリハビリ野球肩野球肘

写真⑤
沖縄スポーツリハビリ野球肩野球肘

長母指屈筋の通り道で、距骨という骨の後ろを通ります。
この距骨は足関節の動きで非常に重要な役割を担う骨で、足関節が背屈する時に、距骨は後方に移動しないといけません。
この距骨の後方にある長母指屈筋が硬く、距骨が後方に移動することを妨げてしまうと、この背屈の動きがしにくくなり、投球動作時のフットプラントの際に前方への重心移動が不十分になります。

【可動性が出てきたら、安定性も必要とする】

硬い関節がストレッチなどで動きがよくなってくる(可動性が向上・可動域が拡大すると言います)と、関節自体は不安定にもなります。
関節が硬かった分、安定はしていたためです。
石は硬いけどしっかり安定しており、多少の衝撃でも壊れません。
豆腐は柔らかさがある分、形を変えられますが、衝撃に耐えられず壊れてしまいます。
トップアスリートには柔らかい選手もいますが、その分柔らかい中での安定性がないと故障の原因となります。
肩関節の故障の多い選手には、他の関節が硬いにも関わらず、肩関節のみ柔らかさがある選手も多く見受けられます。
柔らかさは、トップアスリートになるための一つの要素でもあるかもしれませんが、その分怪我・故障をしやすくなるという可能性も秘めています。
どこが安定して、どこの動きがよくなったほうがいいかを選手自ら動きながら感じながら進めていく必要があります。
もちろん客観的に適切な判断をし、アドバイスをくれる指導者も大切な存在です。

【捻挫をしなくても習慣で足は変わる】

以前も述べましたが、捻挫などを繰り返すと、足関節の靭帯が伸びて、足関節自体が緩くなります。
怪我は適切に対応すれば、後遺症は最小限にすることはできますが、捻挫を繰り返すことで後遺症は残りやすくなります。
また、捻挫をしていなくても、過度に足首を伸ばそうとする習慣(写真⑥)があると、捻挫をしたような足関節になることもあります。
特に女性が多いかと思いますが、男女関係なく、日々の習慣からも身体が変わることを覚えておいてほしいです。

写真⑥
沖縄スポーツリハビリ野球肩野球肘

【足・体幹から指先に力を伝えるために】

野球のスローイングは、最終的に指先にてボールを押し出して投げます。
投げる先には味方のグローブがあります。ボールを押し出すための力を指先で伝えます。
指先にもボールから力が加わります。その力は投げる力と同じ強さの反対の向きです。
このボールから指先にかかる力は、指先から体内を通っていきます。
その力がかかる場所で負担が大きくなると、肘や肩に負担がかかります。
指先とボールのお互いの力を効率よく伝えるために、体をどう動かすかが大切になります。

投球時のステップ幅には、それぞれの体に合わせたステップ幅が必要です。
このステップ幅については、指導者などによって考え方が異なります。
一般的な考え方はありますが、プロ野球選手でも毎シーズン微調整してベストが位置を探しています。

野球を始めたばかりの小学生などでよく見られるのは
①ステップ幅が極端に狭く、上半身の力だけで投げようとするタイプ。
これは軸足からステップ足への重心移動にて出す力が不十分で、それでも強く投げようとするため、腕の疲労が蓄積してしまいます。
技術・知識的な原因もありますが、股関節や足関節の可動域の硬さからそのようなステップ幅にしかできないという場合は、ストレッチ等で関節の可動域が広がることで自然と適正なステップ幅になることがあります。

②逆にステップ幅を大きくしすぎるタイプは、その選手の現状の股関節や足関節の可動域の限界を越えてしまい、結果として肘や肩に負担がきます。
関節の可動域がそのステップ幅に対し十分広がれば大きな問題とならなくなるので、この場合には関節の可動域の拡大が有効です。
①と②を合わせると、ステップ幅を身体の硬さに合わせて考えること、逆に目標とするステップ幅に身体の柔らかさ等を合わせること、両方から考えることが大切です。

【最後に】

当院てるクリニックにも毎日野球肩や野球肘に悩まれている多くの方が来られます。
学生さんは親御さんと来ることが多いです。
その中で思ったよりよくなる選手は、親御さんに言われないでも自ら自主トレなどを継続して行なって、なんで痛みが出ているのかを理解しようとしている選手です。
今回説明した内容は、一度で理解できないこともあるかと思います。
野球や医療には多くの本や情報があり、何が本当なのかわからなくなる時もあると思います。
野球の指導内容もプロ野球の影響などを受け、時代によっても日々変わってきます。
医療も日々発展しており、変わってきています。
何がいいかを考える力も必要となってきますし、実際に身体を通して何がいいのか、何が自分に合っているのかたくさん考えてみてください。

すぐには理解できないかもしれませんが、選手の体は選手自身のものです。
コーチや親御さんなどもサポートしてくれますが、まず第一に自分がどうしたいか、どうなりたいかを考えて取り組めたらいい野球への復帰も早くなるかもしれません。
怪我をしている時には、スローイングストップやスローイングの制限(シャドーのみや、ネットスローまでや、キャッチボールまでなど)をしないといけない時はありますが、その中でもやれることはたくさんあります。
上記でもお伝えしたように投球動作は全身の運動です。肩や肘を痛めて投げられない時にも投げるための準備はできます。
どんな準備ができるかを考えてみてください。
また、投球禁止となった時に、学校にて体育や遊びでの野球ではないけど、ボールなどを投げる動きも肩や肘に負担がかかります。
野球を休んでいるのに痛みがあるという選手は、野球以外の日常生活にて負担をかけている動きがないかも考えてみてください。
怪我をして休むと焦ったりすると思いますが、休む時も必要と体が教えてくれているのかもしれません。
この機会に野球のことを考えたり、野球以外のことにも目を向けたりすることで、怪我からの復帰後に野球に向かう姿勢も変わるかもしません。
怪我から復帰後に野球の面白さに今までより気がついて成長していく選手も目にします。
怪我や故障してしまったことをどうプラスにしていくかが鍵となると思います。

てるクリニック
理学療法士 玉城潤

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