2017年9月号BASEBALLクリニック

野球肘についての基本的な知識と一般的なその対応について「てるクリニック」院長の照屋先生と同クリニック理学療法士である玉城さんに説明してもらいます。今回は、前回の続きで内側の野球肘について話してもらいます。

【はじめに】

学生は夏休みも終わり、部活三昧の日々から学校生活が始まりましたね。夏休みが明けて、日常生活のペースも変わってくると思います。夏休みの宿題で疲れたかもしれませんが、この経験が野球にも活きてくると信じましょう。
学校が始まると、夏休みより座っていることが長くなりますし、野球以外のことを考える時間も増え、負担のかかり方が変わってきます。その都度自らの身体の変化に気づき、秋季大会に向けて心身ともに調整していきましょう。
大学生は夏休みが続き、社会人も日常生活は続きます。これまで同様季節の影響も加味しながら、怪我等なく野球を継続してほしいです。
前回は、内側の野球肘、特に上腕骨側に起こる問題についてお伝えしましたが、今回はその復習をした後に尺骨側にかかるストレスをお伝えします。

【前回の復習から】

写真①
沖縄スポーツリハビリ野球肩野球肘

肘は上腕骨と尺骨という骨の2つでできており、内側の痛みは、上腕骨の内側上顆というところと尺骨を繋ぐ場所に障害が出ます。上腕骨の内側上顆には、内側側副靭帯と回内筋群(前腕を内側に回す筋肉)がついているため、一般的にはその2つの組織の関係から野球肘の内側の痛みが起こると言われています。
内側の野球肘の上腕骨側の障害は、レントゲン写真(写真1)のようになります。左のレントゲン写真は、投球側のレントゲンで右肘です。矢印が指しているところが内側上顆より骨片として剥がれた部位です。この部位にかかるストレスは、いわゆる『肘下がり』になり、ボールに加速をかける力が肘にかかる時に起こります。
以前の回でも述べさせて頂きましたが、この『肘下がり』なる要因は様々で、「これが問題で肘下がりになる!!」とは一概に言えません。投球の繰り返しによって、痛める選手もいれば、一回の投球で痛める選手もいます。足からの影響、股関節からの影響、胸郭の動きの影響、肩甲骨の動きの影響等、肘下がりになる要因は身体中にあります。

【ボールリリースの際に負担のかかる慣性力】

ボールリリースでは投球時の最高加速になっており、この力を手からボールに伝えることが必要とされます。この慣性力は、バス乗車時、出発する時に身体が後ろに倒れそうになることや、逆にバスがブレーキをして身体が前に倒れそうになることとと同様の力です。
ボールリリース時の慣性力は前方に引かれる力になっています(写真2)。

写真②
沖縄スポーツリハビリ野球肩野球肘

この時に足関節や股関節の可動域が不十分だとブレーキとなり、身体が前進する慣性力に対し、投球側の肩や肘に減速する力がかかってされてしまいます(写真3)。この慣性力が肘や肩の関節に対し、牽引される力をかけます。最終的にボールに力を伝えて投げるために、投球動作中の最初の問題をその後に微調整していくため、ボールリリースから先に問題が起きやすくなります。

写真③
沖縄スポーツリハビリ野球肩野球肘

身体はざっくりとですが、手ー前腕ー上腕ー肩甲骨ー鎖骨ー胸骨ー肋骨ー脊柱ー骨盤ー大腿ー下腿ー足と繋がっており、投球時の足の問題を股関節や胸郭などで解決できないと肩や肘に負担をかけてしまいます。各関節がそれぞれ負担を請け負い、一箇所に力が働きすぎないようにする必要があります。また、投球は一球一球、打者やマウンドや場面など全て異なります。その場面全てに対応できる身体でないと、上記のような負担が肘にかかるかもしれません。学校のマウンドでは大丈夫でも、他の環境になった時に対応できないと、肘への負担に繋がります。

【年齢的な問題】

前回でもお伝えしましたが、野球肘は肘にかかるストレスと別に一般的には年齢による要因もあると言われています。写真4を見てください。

写真④
沖縄スポーツリハビリ野球肩野球肘

これは、肘関節周囲の骨の成長を表しており、左側の年齢が骨端核のできてくる時期、右側の年齢が骨端核から骨化が完了してくる時期です。上腕骨側の痛みの多くは、上腕骨の内側上顆が骨化していなく、弱い時期に起きることが多いとされており、骨としても硬くないのでこの部位にストレスがかかると損傷しやすくなると言われています。また、骨化は骨の成長によって異なるため、実際には一人一人レントゲンや超音波画像診断装置(エコー)で確認しないと、はっきりとは言えません。

【レントゲンはこう写る】

写真⑤
沖縄スポーツリハビリ野球肩野球肘

写真5は正常な肘です。これは投球側でない肘です。

写真⑥
沖縄スポーツリハビリ野球肩野球肘

写真6の矢印の部分が損傷したところです。レントゲンではこのように写ります。

【尺骨の内側野球肘を引き起こす要因の一部】

今回取り上げます尺骨側の内側野球肘についてですが、上記でもあるように投球側の肘への牽引力(引かれる力)を最小限にする必要があります。投球中のどこかに前方への慣性力を止めるような力が働いているということが予想されますので、その止めているとこがどこか考えればよいのです。
もちろん年齢的なことも考慮しつつ、投球動作時のストレスを肘にかけなければ障害は起きにくくなります。
右投げの場合、まず右足の軸足の安定性を確保しつつ、踏み込み足である左足への体重移動が大切です。今回は、踏み込み足の股関節と足関節の問題を解剖学の基礎を含めてお伝えします。

写真⑦
沖縄スポーツリハビリ野球肩野球肘

股関節の可動域(可動域:関節の動き)、足関節の可動域が不十分であると、前方への動きを制限し、肘への負担に繋がります。
股関節は球の形(写真7)をしているため、三次元の動きが可能です。股関節の元々の可動性がある分、動きが減ると影響が大きくなります。
股関節は一方向だけでは言えない部分もありますが、写真8のように股関節の屈曲(大腿部がお腹に近づくこと)の可動性が不十分にならないようにしたいです。
次に足関節の可動性ですが、しゃがみ込む時必要な足関節の背屈(つま先とスネが近づく動き)が大切です(写真9)。

写真⑧
沖縄スポーツリハビリ野球肩野球肘

写真⑨
沖縄スポーツリハビリ野球肩野球肘

【肘が痛くなった時に】

肘が痛くなる要因は様々あり、主に肘自体には大きな問題はなく、投球にて肘へのストレスを繰り返した結果肘を痛めます。投球を休むことで肘自体のストレスはなくなり、炎症などは治まってきますが、肘以外の問題は身体のどこかに残ったままである可能性があるので、その問題がどこかを考え、改善させておく必要があります。
テスト明けで久しぶりに投げるために投げる感覚自体がよくわからなかったり、野球を始めたばかりでフォームがわからなかったり、他の部位を怪我して身体自体のバランスが崩れてしまっていたり、身体だけではなく、環境も含め様々な要因があり、肘が痛くなります。
人間の痛みは、『無理しすぎだよ、怪我するよ』という身体からのサインであるため、このサインを聞き、野球の継続、パフォーマンスアップをしていってもらえたらと思います。
また、今回のシリーズでは取り上げていませんが、『上腕骨小頭の離断性骨軟骨炎』という野球肘もあります。この野球肘については痛みや違和感等なく、関節を破壊していくこともありますので、注意が必要です。

【方法論だけではなく、何が根本か考える癖をつけてほしい】

今回は、あえて問題に対しての解決方法は載せませんでした。次回以降の連載にて載せることも可能ですが、内容は検討中です。
股関節の解剖について写真とともに載せました。昨今、解剖学などは一般の方でもスマートフォンのアプリなどで勉強することも可能になっています。自らの身体がどうなっているのかを詳細にイメージし、自分が思い描く通りに身体を動かせているか考えてみてください。
身体の勉強に早いも遅いもありません。専門家ではなくとも勉強することで野球や走ることのパフォーマンスに繋がることも自ら思いつくかもしれません。その中で専門家に聞くことで、より深い理解に繋がるかと思います。
『これがいいよ、あれがいいよ』という情報だけではなく、『なぜこれがいいのか、自らの身体には合うのか』を頭で考え、体で感じ、何が最善か探していってもらえたらと思います。

てるクリニック
理学療法士 玉城潤

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