今回は、肩についての基本的な知識や野球肩やなどを何回かのシリーズにて行います。
てるクリニック理学療法士の玉城が説明していきます。
【はじめに】
新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。
スタートから意気揚々と過ごせるように楽しんでいきましょう。寒い日には冷えた体のままムリしないように、どんな年代の方もアップをしっかり行い、全体練習の前に自分で体を整え、野球をしましょう。高校生は、今月競技大会がありますね。各校の活躍を楽しみにしています。
今回から何回かのシリーズにして、野球肩について隔月連載(奇数月)していきます。野球肩のこと、それに伴う解剖学のこと、投球を行うにあたっての必要な知識等をお伝えしていきます。多少難しいことも入ってくるかもしれませんが、お付き合いいただけると幸いです。
また、専門用語を入れた場合には、その用語の説明を入れますが、分からない言葉があれば、ご自分で調べて自らの知識にしてもらえたら嬉しいです。
【野球肩(投球障害肩)ってどういうのがあるの?】
野球肩と言っても、痛めた部位は異なります。年代によっても異なりますし、 “野球肩は野球をしていることで痛めた肩”という総称であるだけなので、大切なのは肩の何を痛めたかということです。これは、①の表のように分類することができます。
表①
この分類についての解剖学などの基礎知識を少しずつ連載の中で紹介していきたらと思っていますので、よろしくお願い致します。
【主な野球肩(投球障害肩)の発生要因】
山﨑先生らの図②がわかりやすいので、この図を元に説明していきます。
図②
投球は何球も繰り返していきます。その投球の繰り返しの中で肩に何らかの負担がかかるとします。この時、仮に肩への負担がなければ、この図のようにはなりません。上腕骨頭の本来あって欲しい位置からズレることを、非生理的偏位と言います。この上腕骨頭の非生理的偏位が投球障害肩の組織損傷をもたらす可能性が高くなります。
投球動作の繰り返しを行なう中で、(肩関節の)後方組織の拘縮、(肩関節の)前方不安定性・関節上腕靭帯伸張・腱板疎部損傷があると、上腕骨頭の求心性低下を起こします。求心とは、中心に近づこうとすることなので、求心性の低下とは、肩の上腕骨頭が中心に近づこうとしにくくなるということです(図の中の球心性は誤字です、正しくは求心性)。そして求心性の低下が上腕骨頭の非生理的偏位を引き起こす要因となります。写真③の真ん中が上腕骨頭の非生理的偏位を起こしている模式図です。
写真③
次に運動機能不全として、肩甲帯や体幹・骨盤・下肢の問題があります。
これは、上腕骨頭に対しての肩甲骨の追従機能が大切になってきます。上腕骨頭がズレようとしても、肩甲骨が追いかけていくことで、上腕骨頭の非生理的偏位は起こらなくなります。上腕骨頭に追従している模式図は、写真③の右側です。
上腕骨頭に対して、肩甲骨が追いかける時に必要となっている筋肉が腱板です。腱板は肩のインナーマッスルで、棘下筋・棘上筋・肩甲下筋・小円筋で構成されています。これらがうまく使えないことを腱板機能不全と言います。野球選手と言ったらインナー!というぐらい知られているかと思います。だから、大切なんですね。そして、肩甲骨が追いかける時には邪魔をされると、上腕骨頭の非生理的偏位になってしまいます。
肩甲骨は胸郭・肋骨の上に乗っているので(写真④)、胸郭の動きが悪いと肩甲骨自体の動きが悪くなる可能性が出てきます。体は、骨でも筋肉でも筋膜でも皮膚でも繋がっているので、足の動きが悪くなることが結果として股関節の動き悪くなる⇒体幹の動き悪くなる⇒胸郭の動き悪くなる⇒肩甲骨の動き悪くなる⇒肩甲骨追従機能低下⇒上腕骨頭の非生理的偏位に繋がることもありえます。
写真④
【肩関節のゼロポジション】
投げる動作の中でゼロポジションが肩関節への負担が少ないと言われています。これは肩関節の関節包や腱板の機能によるものですが、これについては次回以降にて説明したいと思います。
肘下がりの説明の時にもゼロポジションを出しましたが、肩関節においても、大切です。
ゼロポジションは肩甲骨の臼蓋(カップ上になっているところ)に対して、上腕骨頭の位置が合っていることを指します。写真⑤の左側のフォームは、肩甲骨の向きと上腕骨頭の位置関係が合っており、ゼロポジションになっています。『肘下がり』の定義とは、右投げの場合、左足を上げ、その左足が前についたときから、右の前腕が一番床と水平に近づくところにて、両肩を結んだラインよりも肘の高さが上がらないフォームを指します。要はゼロポジションから下に逸脱しているものを肘下がりというわけです。ゼロポジションから逸脱することが肩関節への負担になるため、上がっているのも肩関節への負担になります。肘下がりが有名なので、肘が下がっていないかと気をつけることが多いかと思いますが、ゼロポジションから逸脱し、肘が上がりすぎているのもいいとはいえません。
写真⑤
いかに写真⑤の左側のようにゼロポジションで投げられるかが大切です。まずは知識としてゼロポジションを覚え、そしてゼロポジションで繰り返し投げ、肩関節への負担を最小限にし、表①のような投球障害肩にならないようにすることが選手として心がけることかと思います。このゼロポジションでの感覚を覚え、このフォームを維持できるように体作りをしていってほしいと思います。
【想像してみる】
これまでもこれからも野球についての体の話を中心にしていきますが、この2ページだけで伝えられないことが多くあります。それは私自身も言葉に出来ない部分も含まれています。
この打者にはこのタイミングで、この球速で、この球を投げれば、内野ゴロになる可能性が高い、だからこのように投げるという戦略を取った場合、もちろん打者の考えていることを想像したり、他のチームメイトのことを考えたりすることでしょう。同じ場面は一つとしてないため、考えられることがたくさんあって、その状況状況で立ち向かわないといけません。
どんな状況にも対応できる自分であるために、その状況になっても普段通りの投球を続ける平常心であること、普段通りの投球を続けられる体であることが必要です。無理をしなければ怪我は少ないかもしれないですが、今の限界を上げていかなければパフォーマンスはあがらない。ではどこをやる必要があるのか、今自分には何が必要なのか、問いながら進んでほしいと思っています。怪我をしないのがもちろんいいことではありますが、怪我を恐れて挑戦しないのは非常に寂しいことです。たくさん想像して考えて行動し、限界を上げていってもらえたら嬉しいです。
私自身も日々の臨床の中で患者さん、選手たちと関わることで理学療法士としての限界を引き上げる挑戦をしています。一緒に頑張りましょう。
てるクリニック
理学療法士 玉城潤
【参考文献】
・西中直也/投球障害肩一診察のポイント,診断のコツー/MB Orthopaedics 30巻 4号
・山﨑哲也/投球障害肩における組織損傷の発生メカニズム/日本整形外科学会誌 805-816,2015
・山口光國編/投球障害に対する医療施設でのリハビリテーションとリコンディショニングの投球障害のリハビリテーションとリコンディショニング 2010